思いつきの小説 吾輩は亀である 4話
吾輩は亀である。今日は雨が降っている。
激しい雨のせいで、ずぶ濡れになったご主人が家に帰ってきた。
こんな日は機嫌が悪いから、4度目の脱走を決行するべきかもしれぬと逡巡していると、ぬうっとご主人の顔が目の前にあった。
サバ缶も目を細めて、神妙な面持ちでこちらの様子を伺っている。
するとだしぬけに、ご主人が吾輩を台所に運び、水道で丁寧に洗い始めた。
もはやこれまで、鍋料理にされるのは間違いない。サバ缶よ先立つ不孝を許してくれ、
と覚悟を決めているところで、ご主人は吾輩をタオルで丁寧にふき始めた。
どうやら、ただ体を洗ってくれただけのようであった。
サバ缶は、なんだつまらぬという顔で隣りの部屋に歩いて行く。
ともあれ吾輩は今日も何とか生き延びたようである。
思いつきの小説 吾輩は亀である 3話
吾輩は亀である。名前もないが運もない。
吾輩と同じくらい運のないこの若い猫はサバ缶という。
サバ缶は一年ほど前に、あの人格破綻者のご主人が気まぐれで拾ってきたらしく、
長く一緒に住み苦労している分、ずいぶんと老けて見えるようである。
サバ缶は白く美しい毛並みをしているが、それがご主人の目に止まったのが運の尽きであった。
拾われてからというもの、サバの缶詰を口移しで食わされたり、毎日風呂に入れられて悲鳴をあげたりと気の毒で見ておれない。
吾輩が思うに猫好きには人格破綻者が多いようである。
いまサバ缶は、日差しが差し込む中で仰向けにぐっすりと眠り、ご主人が帰って来るまで束の間の平和を謳歌しているのである。
思いつきの小説 吾輩は亀である 2話
吾輩は亀である。名前はもう諦めておる。
何の因果か人格破綻者のご主人の下で、毎日陰鬱な日々を送っているのである。
吾輩ばかりが苦労してるわけではない、拾われてきたこの猫も苦労してしているようであり、この若い猫の名前はサバ缶という。
おおよそ猫というものは飼い主が家にいないと寂しがるものであるが、サバ缶の場合はご主人がいない時こそが至福の時間のようである。
時々、吾輩の頭をサバ缶がちょいちょい前足でこづいてくるので嚙みついてやるが、
普段はお互い苦労を分かち合い、しぶしぶ暮らしているのである。
思いつきの小説 吾輩は亀である 1話
吾輩は亀である。名前はまだない。
年は齢100歳である。
今のご主人は人格破綻者であるから、三度の脱走を試みたがそのたびに捕まり、
そのうち鍋にでも入れられるのではないかとヒヤヒヤしながら暮らしているのである。
ご主人の家に来たのは半年前で、それ以前はこやつの親戚の家で飼われていて、
名前は諭吉と呼ばれていた。
なんでも夏祭りの縁日の出し物で亀釣りというのをやっておって、吾輩の甲羅に一万円札がくくりつけられていたのが理由であった。
ご主人は吾輩に名前などつけるつもりはないらしく、いつも、おい亀たまには踊りでも踊ってみろなどと話しかけられるばかりで、憂鬱な毎日なのである。